director's voice

森を知り、樹を活かすものづくり 川端マリコさん(木工)

今展より6名の作家から寄稿いただきました。
「つくるひとの手−工房からの風景」

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森を知り、樹を活かすものづくり
川端マリコ

みずみずしい丸太から手道具だけで作品をつくる日々は、素材の個性を受け入れ、良さを見つけて活かすことの繰り返し。
斧で割るたびに新たな表情との出会いがあります。
個性を五感で愛でながら、心身健やかでいられること、場所に縛られることなく、穏やかに樹と向き合いながらあいまいで、人間的なものづくりができることは、この時代、とても幸せなことなのかもしれません。

素材は木材になることのない、伐りたての間伐樹です。
自ら森林整備に参加し、森を知ること、育った地へ足を運び、空気を知ることを制作のはじまりと考えています。
伐られた樹ではあるけれど、新鮮なうちは感情のある共同制作者と思い、触れ合っています。
言葉はなくとも、かすかに感情の起伏があり、長く触れていると少し心を傾けてくれている感覚があります。

乾いたあとの、樹の生み出したおおらかなゆらぎが美しかったとき。
さらに手のひらのなかで削って、削って、作品へ生まれ変わったときの表情の違い。
成長のつづきを見ているようで、制作の励みとなっています。

樹は身近な存在ではあるけれど、もちろん寿命があります。
守ってゆくことは大切ですが、無理に生かされている樹が、日常を脅かす存在になってしまうのはとても辛いことです。
良きタイミングにどのようなプロセスで活かし、その後長く使ってゆくかを考えることも大切であること。
木材として流通することのない、身近な素材を扱うものづくりをきっかけに、森や樹から学んだ視点です。

樹の命を生涯もっとも長く使う食具のスプーンに変え、生かし続けることができる、このものづくりに不思議な縁を感じています。
使うことで日常に寄り添う樹や森を想う、ゆるやかなつながりの種となる作品を地道に生みだしてゆきたいと思います。

代々、食に関わる家系で育ちました。
幼い頃の、樹々に囲まれた環境での楽しみは食事の時間。
いくつになっても、私にとって森と食卓はしあわせの場所です。

手にぴったりと馴染む食具を使うことは、
食事の時間を楽しくしたり、美味しく感じたりする力があると感じています。

ふぞろいの丸太から手彫りで削りだしたぴかぴかのスプーンは、同じものがありません。
人間らしく自分のものさしで選ぶ楽しさや難しさを知っていただき、その感覚を大切にしていただけますように。
そして、スプーンの表情が変わってくるころには、頼もしい食事のパートナーでありますように。